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「どちらにしようかな。てんじんさまの言うとおり。ごはんつぶ、かきのたね、あぶらむし、ぷりっぷりっぷりっ。ちゅっちゅくちゅーのちゅっちゅっちゅっ。てっぽう撃ってバン、バン、バン。おまけにもひとつバン、バン、バン!」 「あなた、年賀状がきましたよ」 ピンク色の江戸小紋の着物に白い名古屋帯を締めた桐花が、届いたばかりの年賀状の束を盆にのせて書斎に入ってみると、お屠蘇で顔を赤らめた夫は子供っぽい数え歌に夢中になっているところだった。 「……なにをしとられるんですか?」 桐花はあきれたように笑いながら、はがきの盆を机のそばのサイドテーブルに置いた。 秀顕は正月気分と親馬鹿のダブルでのぼせて、そのとき娘の写真を隠すことを思いつかなかった。 桐花は夫の机を埋めつくした幼い子供の写真に目をとめると、 「あっらあー、かわいいお嬢ちゃんじゃわあ」 ぱっと母性的な笑顔を浮かべて、写真の一枚を手に取った。 「どちらのお子さんですか?」 秀顕はハッとして、背中にピストルを突きつけられたような気持ちになった。 まずい。この状況では、さっき思いついた嘘は言えない。いくらなんでも年賀メールでこんなに大量の写真を送ってくる者はいないし、いたとしても、それを彼が片っぱしからプリントアウトする理由がなかった。 『あちゃー、えらいことになった!』 秀顕は青くなって、思わずつばを飲み込んだ。 こうなったら正直に言うべきか、それとも適当にはぐらかすべきか。この期に及んでまだ迷いながら、彼はだんだん小さくなる声で言った。 「実は、なんちゅうか……、その子をな、うちの養子にしたら、ええかな……と、思うんじゃが、な……」 それは桐花の質問の答えになっていなかった。でも、この場合、答えになっていないこと自体が答えになってしまうことに、彼はすぐ気がついた。弁解の必要を感じたが、かといって正直に自白するわけにもいかなかった。必死で言い訳を考えながら、上目づかいで妻を見ると、さっきまでの温かい笑顔が冷たい無表情に変わっていた。その変化に思わず息をのんだとき、桐花は彼が愛してやまない娘の写真を無慈悲に破って床に落として、スリッパのつま先で踏みつけた。 「おまえっ! なにゆうことをする!」 怒った秀顕は、反射的に妻の頬をたたいてしまった。 悪いのは浮気をした自分だということはわかっていた。妻のしたことが彼の反応を見るための意図的な挑発だということもわかっていた。わかっていたが、このとき彼は父性愛のせいで、完全な被害者意識にかられていた。桐花が愛希子の写真を踏んだとき、彼の耳に「おとうさん!」という娘のいたいけな悲鳴がたしかに聞こえたのだった。 かといって、本気で怒ったというわけでもない。妻が愛希子の写真を破って踏みつけにすることで自分の感情を示した以上、彼も怒りを態度で示すしかないと思ったのはたしかだとしても、このときは彼は怒ったというより、自分が心に受けた痛みを妻にわからせるために手をあげた、というほうがむしろ正しい。 ところが、桐花は彼に打たれてもまばたき一つせず、涼しい目で彼を見返したのだ。しかも、その足はまだ冷酷に写真を踏んでいた。 「足をどけんか!」 秀顕は怒鳴った。桐花の肩を突こうとしたが、今度は軽くかわされた。その反射的な素速い動作で、さっとひるがえった妻の着物の袖に目を奪われた次の瞬間、彼女が放った右フックが彼の顎先に命中した。 その衝撃で頬の肉がブルッと波打つのを彼は感じた。痛みはなかった。 『ねらいを外したか。やっぱり女じゃ。兄貴に殴られるほうがよっぽど痛かった』 と負け惜しみのように思った直後に、すーっと意識が遠のいた。 |
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